4月 Prologue

Your soul is carried to the most suitable place with destiny.

この旅の終わりに、どうか未来を。
彼らの行く末に幸多からんことを祈る。

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カーテンの隙間から光がうっすらと差し始め世界は朝を迎えようとしている。
人類が滅びようとこの星は廻り続けて、また今日が始まった。
けれど少年少女の時間は永遠では無い。
限りある今日のため、また明日を生きるため、彼らは最後の楽園を目指す。


【20XX年4月】
大きな家に、たくさんの家族。
18人が集まって半年が経った今日、遂にこの場所を出て旅を始める。
ニカは壁に取り付けられたカレンダーに赤いペンでバツ印を刻んだ。

ニカ「...よし、皆準備は出来たか?」

振り返れば大なり小なり荷物を抱えた家族たち。

豪「うん。...でもやっぱりちょっとだけ寂し〜ね」
禄「そうだなあ、半年もお世話になったもんな」

少し物が減った部屋を見渡せばいつもより広く感じて、此処から旅立つのだと実感する。
呟いた豪と禄だけではなく、皆懐かしむような表情を浮かべていた。

萌黄「ど、どうしよぉ...なんか緊張してきたなぁ」
玲雄「昨日までちゃんと準備してきたし、大丈夫だって」
諒「そうそう、大抵何とかなる!」

不安そうな表情を浮かべた萌黄に大丈夫だと寄り添う玲雄。
諒は14歳の幼い背中を励ますように後ろからぽん、と叩く。

シモン「何とかならない時に無茶はするなよ...」
コノハ「...そんな時がくると思うと、ちょっと怖いけどね」

楽観的に話した諒にため息をつきながらシモンは不安そうに呟く。
コノハもまた少し困ったような笑みを浮かべながらまだ見ぬ未来への思いを口にした。
外には希望もあるが、無事にたどり着ける保証はどこにもない。
彼らの言い分も最もであったが、そんな不安を断ち切るようにエルランテが声を上げる。

エルランテ「おい、まだ始まってもねーのにそんな暗い話すんなよ!」
累「最悪の事態を想定していくのは当たり前だろ」
エルランテ「はあ!?てめぇ、んなことばっかり考えてホントに何かあったらどうすんだよ!」

エルランテの言葉に累は煩わしそうに顔を顰めた。
いつもの事なので今更誰も気に止めないが、この2人はどうにも折り合いが悪い。
突然声を荒らげたエルランテの服の裾を引き、ベルヴァルトが小さく囁く。

ベルヴァルト「喧嘩はめっ、なのです」
デューク「おい、あまり騒ぐな。...お前たちはもっとカルシウムを取れ」

見兼ねたデュークにまで止められ、流石の2人も口論を続けなかった。
いつもの様に笑い合い、時には喧嘩し、時間を共にしてきた家族たち。
一歩外に足を踏み出せば、この平穏な日常は簡単に崩されていくことをきっと誰もが知っている。
映画の様に定められたハッピーエンドなど用意されてはいないのだ。

慈深「...皆で、生きて楽園に行きましょう」
デューク「...咲蜜」
慈深「難しいかもしれないけど、...でも!もう、離れ離れになるのは嫌なんです」

震えた声で、けれど強く、慈深が言葉を紡ぐ。
小さく幼い少女には過酷すぎる旅だ。
それでも彼女はもう二度と離れないようにと覚悟を決めた。
隣に立ち並ぶ、ノルが慈深の手を取り太陽のように明るく微笑む。

ノル「だいじょ〜ぶ!ノルはずっと慈深のそばにいるよ!」
慈深「うん...っ、ありがとうノルちゃん」

ノルの言葉に緊張していた慈深の表情も和らいだ。
微笑ましそうに皆が2人を見守る中、横目で時計を確認したウィリがニカを呼ぶ。

ウィリ「そろそろ時間だぜ」
ニカ「わかった。皆、そろそろ行くぞ」
翠「...何だか、あっという間でしたね」
ウィリ「不安か?」
翠「えっ?...えへへ、皆もウィリくんもいるので翠は平気です」

もう一人ではない。
互いに信頼しあえる家族がいつも近くにいる。
それだけで心は救われるのだ。
どんなに独りで良いと思ったって、結局人は一人で生きていけないのだから。
木製の大きな扉に手をかけ、開け放つ。
澄渡る快晴、まるで旅立ちを祝福しているかのような空模様。
そして、白塗りの大型バスがいつでも出発できると言わんばかりにエンジン音を鳴らし鎮座していた。

ロクシー「遅いぜリーダー」
努「ニカさん、準備万端っすよ!」

先に外に出ていたロクシーと、バスのメンテナンスをしていた努が迎える。
ニカはこくりと頷き外へと一歩、踏み出した。
ここから先は想像も出来ないほどに、辛い毎日が待っている。
当たり前のように隣にいた家族が、明日もそこに居てくれるとは限らない。
誰も楽園に辿り着けないことだって、あるかもしれない。

二力「(それでも、生きるって約束したから)」
今度こそ、みんな一緒に。


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アクセルを踏む。
半年近く暮らしてきた大きな家が小さく、小さく、霞んでゆく。
「...Are you going to Scarborough Fair」
まだ果ての見えない地平線へと贈る歌。
少年少女は前を向く。
時間は過去には戻らない。彼らの時も無限では無い。
残されているのは1年間。
終わった世界で、未来を探す旅が始まる。


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Are you going to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary & thyme.
Remember me to one who lives there.
He once was a true love of mine.

【20XX年4月】▹【20XX年5月】 

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